山域:南アルプス(北岳)
2004年12月27日~12月29日
メンバー:犬塚(CL)、高木、関、勝木(OB)
ルート:27日(月) 山梨大学=夜叉神の森~吊尾根登山口~池山小屋~城峰~B.C
28日(火) B.C~ボーコン沢ノ頭~吊尾根分岐~北岳頂上~八本歯ノ頭~B.C
29日(水) B.C~池山小屋~吊尾根登山口~夜叉神の森=山梨大学
27日(月)
北岳。登るのは何度目そして何年ぶりだろうか。各自さまざまな思いを胸に秘め、意気揚々と夜叉神の森駐車場を出発した。

まだ日も昇らぬ時刻である。夜叉神トンネルを抜けるとわずかに日が射してきた。なんと言うことはない芦安の林道を長々歩く。周囲はすでに明るく稜線の雪は少ない。天気も良好。これなら無難に行けるだろう、安堵感が広がった。
その中で私は睡魔に襲われていた。出発前夜、コンビニエンスストアで同部員の久留島さんに話しかけられていたのである。初対面にも関わらずよく喋る後輩である。それがまたよく喋るものだから、こちらも合図地を打つ。するとまた話が続く。深夜のコンビニエンスストア、酒類コーナーの前で俺は何をしてるのだか、自分でもわからなくなっていた。圧倒的に話は長く、睡眠時間は不足していた。人の話を聞きすぎる性分もまた問題である。

鷲住山直下を流れる野呂川の吊り橋を渡るとすぐ、木の根が厄介な河岸を登り、また林道を歩く。途中路面の氷に足を滑らせ、うつ伏せに起きながら装備の重さを実感する。歩き沢橋手前の登山口まで歩くと良い時刻になっていた。ちょうど下山したばかりのパーティに積雪情報を尋ねると50cm程度とのこと。準備完了、登山開始。
義盛新道は最初から急登である。荒廃した道と聞いていたがそれは昔の話。今では確たる道である。植生は見慣れた南ア・北岳とおなじ……当たり前か。しかしかなりの急坂である。甲斐駒黒戸尾根の八丁登りに勝るとも劣るまい。きつく感じるのは寝不足のせいだけではなさそうだ。日頃の運動で筋力や心肺機能は健全である。しかし山には登っていない。持久走と登山では使用する筋肉が異なるようだ。久しく登っていない方々はご用心。以前は背後からあおっていたのになぁ、と先行く後輩たちを遠目に見つつ、とくに危険のない山道を一歩一歩登る。
道が白く平坦になったら池跡が現れ、池山小屋はその奥にあった。周辺の雪は少なくきれいな水の確保は期待できない。そんなことお構いなしにB.C候補地の城峰まで進む。どこか雪のある適当な場所がありますように。城峰と思われる地点にはなかなか着かず、無理願って1回休憩を入れる。城峰は実はそこから一越えした所であった。標識の類が見当たらないので読図とカンを頼りに判断する、間違いない。
樹林帯の中B.Cに適当な場所を探す。先に進んでもなさそうだ。結局10分ばかり戻った地点に幕営することにした。近頃の会誌BERICHT(ベリヒト)では装備の不具合が見受けられるが、そのような心配はまったく無用だった。さすがは部長を務めた犬塚である。いつもの鮭とばで夕食までの時間をつぶす。夕食はキムチ鍋、用意周到でできもよい。たくましく育ってほしい。後輩たちの成長ぶりに感動し、明日のアタックに備えてシェラフに入った。なんだか狭いなぁ。
28日(火)
昨晩のテント内は窮屈だったと、朝食を摂りながら皆で話す。朝食はマカロニスープとハム焼きである。実によくパスタ類はお湯を吸う。ハムの脂はよく燃える。
雪は少なかろう、勝手な予測をして6時過ぎに出発した。城峰を越えしばらく行くと登りがキツイ。寝不足も筋肉疲労も回復しているはずなのになぁ。だんだん歩きにくくなり冷や汗が出てきた。胸が苦しい。原因を探りながら登り、結論は一つ、胃もたれである。おそらく朝食のハムだろう。胃薬を取り出し服用するとじきに効果を現した。最近になってよく飲むこの薬、老化という現象を認めざるを得ない。

生きている不思議、死んでいく不思議を考えつつ登っていると、今度は足が重たい。よたよたの千鳥足状態である。体調にも地形にも異状ないので違和感に戸惑っていると、後ろから関が指摘した。
「アイゼンに石挟まってますよ。」

森林限界、そして砂払を過ぎると展望が一気に広がった。眼前に北岳バットレス、右手に甲斐駒、鳳凰、八ヶ岳。左手に間ノ、農鳥、その奥には塩見岳も垣間見える。晴天、快風、積雪は50cmもなく初冬か春先の山のようだ。穏やかで快適な山路が続きボーコン沢ノ頭に到る。ボーコン(亡魂)とはどういうことなのか、興味が尽きない。

当初危惧していた八本歯ノコル付近も難なく越え、左手に北岳山荘を望む無雪期なら岩礫だらけの斜面を登る。我思うに北岳の核心部である。西風を冷たく感じるとそこは吊尾根分岐、正面に中央アルプス、南方には間ノ岳と三峰岳がそびえ立つ。晴天なれども風強し。

むかし北岳の標高を3192mと憶えた。三角点の位置では幾度となく写真を撮り、そこを南側にある岩舞台から見下ろす(・・・・)のが好きだった。標高が改定されたのはこの年の10月。国土地理院によって約0.8m高いその頂上南端の岩盤が確認され、3193mになったのである。近い将来三角点が設置されるであろう場所にしっかりと触れ、さらに数10m北方へ進み、旧来の三角点の前で登頂とした。


頂上そして西側斜面に積雪はほとんど見られず、冷たい風がただ強いのみである。西空の雲が気になったが、眺望は実に良い。梨大山岳部お決まりの「ヨイショ」をした直後、後輩たちは下山すると言い出した。いったい何を味わい満喫したというのか。当初の目的は何だったのか。もっと長居したい私の声にならない意に反し、下山は開始された。次に来るときはあの岩に三角点や標識がずらり並んでいるだろう。標高や百名山のハンターではない私には残念で仕方ない。

復路は速く、雪に隠れた岩の隙間に足を落とすこともある。八本歯ノ頭にはあっという間に着いた。吊尾根の森林限界上の展望を楽しみながら砂払を過ぎB.Cを目指す。途中のハイマツ帯では真っ白な羽毛に覆われたライチョウ2羽と出会った。

日入り間近のB.Cに着くと造水作業が始まる。私以外は水をやたらと飲んでいた様子で、かつて私の身体から化石が産出された現象を思い出し心配になった。雪融け水を用いた夕食はいかにも山梨らしくほうとうである。丁寧にカボチャやサトイモまで入り、具沢山にしてよく煮えていた。飲酒はほどほどに就寝準備。昨晩の反省からザックなどはすべてテント外に出したのだが、それでもなんだか狭い。物事にはそれぞれの限度があるのだ。シェラフの中では雑念を抱え込む。吾二十五にして……。
29日(水)
朝食はフランスパンとスープに限った。昨日の反省あってチーズハンバーグは一かけのみを食べる。モリモリ食べる目の前の後輩たちがうらやましい。出発準備をしていると夜が明け、雲行き悪い下り坂。そのうちに雪が深々と降ってきたが、アイゼンを着けるまでもない。
雪に追われて復路を下る。池山小屋を通り過ぎ、樹林帯の中ぽっかりと池跡を見た。幻想的な光景だがのんびり眺める余裕はない。降雪は徐々に増えてくる。あの時も似たようなことがあったと、むかしの甲斐駒での出来事を思い出した。年末は荒れるという天気情報もお構いなしに、登ってくるパーティと幾度もすれ違う。
立ち止まるとそこは急傾斜の上である。周囲の岩は意外ともろく、往路の記憶を思い出せずに怖々降りる。私も後輩たちも自然破壊者である。今度は眼下で高木、犬塚が滞っている。のぞきこむと大して急な斜面ではない。ためらいもなく踏み出すとスリップ、直撃っ! 前者の犬塚の足元まで滑落し、周囲に動揺が広がった。仕舞いには部長から「車間とらなきゃ除名」と叱られ、いやはや面目ない。
先頭を行く高木は赤マークを見つけられずに立ち往生の連続である。眼が悪いのか経験が浅いのか、登る際に後ろを振り向く癖は大切である。それにしても今回の山行は大変暖かいようだ。氷点下であろう気温でもザック内の水が凍っていない。水の融点付近の温度は実によろしくない。山でも生命の世界でもそうだ。足元の氷雪は滑りやすくなり、さらに枯れ落ち葉がスリップを招く。前者が転ぶさまを見て足跡に気をつけるとまた転ぶ。時季が違えばただの下山道を皆幾度となく転倒しながら、いつしか雪一面の吊尾根登山口に到着していた。義盛とは誰だったのか、今でも謎のままである。
林道でも幾多のパーティとすれ違った。登山者の高齢化は季節を問わないらしい。鷲住山を一越えし、往路では気付かなかった危険箇所を過ぎれば芦安林道。ピストン山行での危険になりうる地点を往路で予測しておく重要性を再度認識する。林道を安心感と達成感に浸りながら一路夜叉神の森へ向けて歩く。

精神及び肉体に最後の試練を与えるごとく、夜叉神トンネルは口を開けていた。出口側は門扉によって閉ざされているため、行けば行くほど暗くなる。明かり一つない真直ぐな隋道を皆が皆出口目指して歩き行く。お互いの位置もわからない。一筋の光が見えそれが門扉の隙間から差し込んでいることがわかると、ついつい雑多に考えてしまう。施錠されていたら引返して夜叉神峠を越えるのか、なぜ人は山に登るのか、林道の長いトンネルを越えるとそこは……。
とても1kmとは思えぬ長さであり、誰も発狂しなかったのが不思議な程であった。門扉の冬季封鎖はまだ実施されておらず無事に開けることができた。真の安堵感が広がり駐車場に到着、夜叉神の森は既に雪の中である。雪を落としてもなお過積載の乗用車は甲府盆地へ向けて滑るように発進した。この後芦安の道路事情や居酒屋で見た新部長高木の度胸など色々あったのだが、それについては後日の話として、今回はこの辺で筆を置きたい。
【勝木】
行程:
27日(月)
夜叉神の森6:00~吊尾根登山口9:15-9:30~池山小屋12:53-13:05~城峰14:25-14:35~B.C 14:45
28日(火)
B.C 6:37~ボーコン沢ノ頭9:47-10:02~吊尾根分岐12:15~北岳頂上12:43-13:05~八本歯ノ頭14:05-14:20~B.C 16:15
29日(水)
B.C 6:54~池山小屋7:19-7:20~吊尾根登山口9:50-10:05~夜叉神の森14:00